乳幼児健診

小児科医になってから、ずっと乳幼児健診には関わってきました。一生懸命にしてきたつもりですが、失敗例は山ほどあります。まだまだ上手になりたいと考えています。

乳幼児健診ハンドブックは2010年3月、2015年秋に全面改訂をして第4版が出ました。2019年3月に新訂版を出しました(左)。

乳幼児健診の技術的側面についての標準化(均てん化)も考え、厚生労働省ともお話をしましたが、2013年から小児科連絡協議会(基本的担当は日本小児科学会)で、乳幼児健診についての若手医師を対象としたセミナーを開始しました。私の後のプロモーターは成育医療センターの小枝先生にお願いしていました。2016年秋からは小児保健協会主催で行っています。
年齢的なものもあって、講習会などのお仕事からは基本的に引退しました。ただ新型コロナウイルス感染症の流行で乳幼児健診の延期や中止が相次いだこともあって、佐久医師会の「教えてドクター」グループの乳幼児健診のチラシ編集の監修協力をしました。
https://oshiete-dr.net/pdf/2020kenshin.pdf

乳幼児健診とは
現在多くの自治体で行われている乳幼児健診は、3−4か月児健診、1歳6か月児健診、3歳児健診の3健診です。このほかに自治体によっては6か月児健診、10か月児健診、1歳児健診、5歳児健診などが行われています。3−4か月児健診については母子保健法第13条および厚生省からの通知に基づき昭和40年代から多くの自治体で実施され、1歳6か月児健診および3歳児健診は母子保健法第12条で市町村の責務として掲げられており実施が義務付けられています。

子育て支援のために
健診というシステムができ始めた当初は疾患や障害の早期発見や栄養指導などに力点が置かれてきました。しかし少子化を迎えている現在では、子育て支援という大きな流れの中での社会資源の一つという位置づけもされようとしています。
少子高齢化の問題が大きくなるにつれて子育て支援が強く唱えられるようになってきましたので、乳幼児健診も例外ではなく、子育て支援の側面が強調されています。
個別に医療機関で行う健診については、かかりつけ医の機能の充実や気軽な相談の受付が支援につながります。実際には忙しい日常診療の合間に行うため十分な時間が取れない場合もありますが、住民にとっては相談に乗ってくれる小児科医の存在はかけがえのないものであると思います。
一方、集団で主に自治体が行なう健診では、子育て支援を考える場合には障害や疾患の早期発見だけではなく、より健診を総合的なものにすることや、親子関係にも重点をおくことが必要になってきます。

すなわちこれからは、乳幼児健診の場を疾患や障害を発見することのみを目的とするのではなく、広く子育て支援につながる社会資源としての位置づけが必要になっていると考えられます。

【乳幼児健診の限界と結果としての見落とし】

 
たとえば4か月児健診では先天性股関節脱臼(最近では発育性股関節形成不全と呼ばれることもあります)を発見する必要があります。見逃しはのちの歩行の遅延や歩容の障害につながる可能性があるからです。超音波検査で臼蓋形成を全例検査していれば話は別ですが(その方向性を機会があるごとにお話しているのですが、なかなか広がりません)、診察所見だけで
100%は私には自信がありません。しかし4か月児健診で診断されず、1歳を過ぎてから明らかになれば、是非はともかく「見落とし」といわれるでしょう。

40年余りも乳幼児健診に関わっていると、苦い思い出もたくさんあります。難聴のケースを4か月児健診で疑ったにも関わらず1歳すぎまで診断がつかなかったケースでは、まず保護者とのフォローの時期についての確認が不十分であったことが後からわかりましたし、電話での確認で保護者が「聞こえていると思います」と述べたことでさらに診断が遅れました。

先天性心疾患の例では4か月、
1歳と診察していたにも関わらず、1歳6か月の時に初めて心雑音から疑ったこともあります。静かでない環境で短時間に多数の子どもを診察しているというのは単なる言い訳で、やはり見落としと言われても仕方ないかもしれません。

乳幼児健診で、どんなに丁寧に診察をしても、どんなに丁寧に問診をしてもすべてがわかる訳ではありません。しかし子どもを連れてくる保護者は異常なしといわれれば「すべてが異常なし」と理解します。ここには大きなギャップがあります。このギャップを埋めることは容易ではありませんが、このギャップがあることが乳幼児健診の限界を示しており、これをいつも認識して健診をおこなうことが結果としての見落としを少しでも減らすことになるのではないかと考えているこの頃です。