発達障害

みんなに知ってもらいたい発達障害を2007年4月に、幼稚園・保育園での発達障害の考え方と対応を2008年5月に出しました。2008年7月に出したいまどきの思春期問題にも思春期の発達障害の問題をとりあげました。9月にもライフサイクルを通じた発達障害の問題についての本を上梓しました。10月には編集した発達障害の理解と対応が出ました。トップページをご覧ください。2009年9月に、「発達障害:子どもを診る医師に知っておいてほしいこと」を出しました。2010年には「あきらめないで自閉症」も出しました。2012年12月にはこれまでのいろいろをまとめて「自閉症スペクトラム障害」を岩波書店から出しました。自閉症などについてはトップページから北海道の続木先生に管理していただいている発達障害のHPに音声入りの動画などをアップしています。
 2015年には「発達障害児へのライフスキルトレーニング」「自閉症・発達障害を疑われた時・疑った時」の2冊を合同出版から上梓しました。前者は小中学校の特別支援教育向けですが、家庭内の対応にも役立つと思います。後者は特に未就学で自閉症を疑われた時に保護者が何ができるかについて「具体的に」まとめてみました。

発達障害と呼ばれるグループには自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害などが入ります。自閉症スペクトラム障害には、高機能自閉症(高機能とは知的に障害がないという意味、アスペルガー症候群あるいは障害も含む)と言語発達の遅れで発見されることが多い古典的なKanner型の自閉症があります。私は「発達障害」は発達そのものの障害という考えではなく、「発達の途中で明らかになる行動やコミュニケーションの障害で、根本的な治療法はありませんが、適切な対応により社会生活上の困難は軽減することの出来る障害」と考えています。発達障害は、生活の中でいつも「障害」を表に出しているのではなく、状況によって障害が明らかになるという特徴があります。しかし障害者総合支援法での「知的」「運動」「精神」の障害は、場面によらず常に「障害」を示すということになっていますのでこの点が異なります。そのために社会生活の上では困難を伴うにもかかわらず、発達障害の場合には精神障害の一部と位置付けられてはいますが、特に小児期では、知的障害の診断書はともかく、精神障害の中の発達障害の障害者手帳の取得が困難であるという問題もあります。言葉の遅れを伴う自閉症の場合には、幼児期に知的障害としての手帳の取得が可能ですが療育によって言語発達が伸びると社会生活の課題を抱えているにもかかわらず手帳の取得ができなくなるという問題もあります。
言語発達の遅れを伴う自閉症では、たとえば3歳で言葉を話すことができなくても早期療育によって大きな効果が出る場合が多い(私の印象では60〜70%)ことがわかってきました。ABA(応用行動分析)の応用などが中心です。こうした療育は一人一人のお子さんの状況が異なりますので、きちんと問題点を把握して個別に療育を計画し、評価していく必要があります。しかし言語発達の遅れ=対応のない知的障害と見なされて、経過を観察されていたり、場合よっては診断すら受けられていないこともあります。

【発達障害者支援法】

 社会としても発達障害についての問題が大きくなったことから、発達障害者支援法ができました。平成16年の10月に国会で成立して、17年の4月から施行された法律です。この法律には第1条で発達障害者の心理機能の適正な発達および円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状が出てきたらなるべく早期に発達支援を行うことが重要だと書いてあります。そして国、地方公共団体や学校教育、発達障害者支援センターなどの役割の位置づけがされています。この法律での定義からした代表的なものとしては自閉症があります。自閉症にはいくつかの種類があるとされており、これらのグループはアメリカ精神医学協会の診断基準(DSM-W)ではPDD(Pervasive Developmental Disorder:広汎性発達障害)という表現が1980年代から使われるようになりました。最近では欧州を中心として、自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)と表現されることが多くなっています。アメリカの診断基準も2013年5月にASDに変わりました。この中にアスペルガー(Asperger)症候群、アスペルガー障害と言われる疾患があります。これは自閉症の中でも知的障害が少ない、あるいはないものを指しており、高機能自閉症と呼ばれることも多くなってきました。アスペルガー症候群についてはいくつかの定義や診断基準があり、それらが必ずしも同一ではないために混乱が起きる場合があるので、私は高機能自閉症(High functioning ASD:HFASDという表現を使用しています。さらに最近ではDSM-WでいうPDDの中に、アスペルガー障害の診断基準を厳密には満たさないけれども、それに近い分類不能群(PDD-NOS, not otherwise specified)が多く存在することもわかってきました。高機能自閉症という場合にはこれらの分類不能群をも含めていることになります。DSM−5ではアスペルガー障害の診断名は消えて自閉症スペクトラム障害に一本化されました。症状も社会性・コミュニケーションとこだわりなどに2本に絞られました。まだWHOのICD−10はそのままです。どちらを使うかで診断名が異なる場合もあります。

次にADHDAttention Deficit/ Hyperactivity Disorder)、日本語では一般的に注意欠陥多動性障害というふうに訳されているものがあります。しかし、新聞などマスコミを通じてADHDという表現の方が知られているかもしれません。この2つが大きなものですが、学習障害(LD: Learning Disorder)もあり、これに関しては、読み、書き、算数の障害が代表的であると考えられていて、多くは小学校入学後に学習の遅れから発見されます。が発達性読み書き障害はしばしば学力の低下を結果として伴ってしまう小学校高学年まで診断されていないこともしばしばです。学習障害は単独で存在することもありますが、ADHDや高機能自閉症の症状が同時に存在することもあります。ですからADHDと高機能自閉症と学習障害とが全部1人の方の中に存在するというような場合も実際にはあります。

 そのほかにいろいろなコミュニケーションの障害があります。それらを含めて発達障害と表現しています。この法律でいう発達障害では、その症状が通常低年齢において発現するものとされています。低年齢とは一般的には大体7歳以下、小学校に入ったころには大体わかると考えられており、発達障害児は18歳未満で、発達障害者は18歳以上ということです。

 しかし発達障害児が法律のとおりに発見できるかというと、法律では乳幼児健診や学校健診で発達障害の発見に努めるというように定められていますが、実際に今までの健診は、全体的な発達とか体への問題が中心で発達障害を発見するような方式にはなっていません。たとえば乳幼児健診では、生後3〜4カ月、1歳6カ月、3歳で実施されている地域がほとんどです。3歳で発達障害を診断するというのは一部の自閉症を除いては非常に難しいですから、5歳児健診を行うなど対応する方式を考えないと発達障害の発見は困難だと思われます。また学校健診では普通は身長、体重を測って、聴診器で胸の音を聞いて、そして喉を診てということが一般的ですから、行動の様子を観察したり、ふだんの行動の状況を聞いたりして診断するということは行われていませんし、そのようなシステムも確立されていません。

さらに、発達障害者法ではいろいろな問題に関しての対応が定められていますが、社会資源が足らないということがあります。診断をするということからして社会資源が足りません。治療もさることながら診断すら受けられないという状況ですから、なかなか十分な支援は難しいという現状があります。


発達障害のつれづれ

いままで多くの本ではADHD,高機能自閉症,LDは別の疾患として扱われてきました。ADHDから高機能自閉症(アスペルガー症候群)への移行があることは知られていましたが、それは一部だとされてきました。しかし私がたくさんの方を拝見していると、ADHDとHFASDには少なからず連続性があります。両方の側面を持つ方が多いということです。年齢によっても症状が違いますけれども、高機能自閉症が中心で、それに「片付けられない」などのADHDの部分症状を持っている方は少なくありません。

従来はADHDがもっとも多いとされており、実際に私が拝見する発達障害の方もADHDが中心でした。しかし最近ではなぜか高機能自閉症の方が多くなっており、特に成人になってから初めて診断する方が増加しています。

ある推計によれば発達障害の方は全国で100万人以上とも言われています。しかし現状では多くの方は診断すら受けられないで社会生活上の問題を抱えていると考えられます。

小児科医として一歩を踏み出してから30年以上が過ぎました。障害を抱えた方への医療にはずっと携わってきましたが、最近では発達障害+思春期の心の問題を中心に取り扱うようになりました。時間がかかる割りに保険点数は低い部門ですが、来られる方たちがどんどん増えている現状ですので、お手伝いをしてゆこうと考えています。

発達障害には根本的な治療法はありません。状況に応じて薬剤を処方することもありますが、多くは社会生活上の問題をお聞きして対応を一緒に考えてゆくことになります。そのような状況から、私の仕事はサポート隊員のようなものだと感じています。白衣はもう15年以上袖を通していませんし、聴診器も乳幼児健診をしているときは別として、めったに使いません。

そんな感じで日々を過ごしています。


発達障害Q&A

Q:発達障害とは

A:言葉からすると歩けない、話せないなどの発達そのものの障害を意味するように思われがちですが、私は「発達の途中で明らかになる行動やコミュニケーション、社会活動上の障害」と考えています。生活の中でいつも「障害」を表に出しているのではなく、状況によって障害が明らかになるという特徴があります。しかし障害者自立支援法での「知的」「運動」「精神」の障害は、場面によらず常に「障害」を示すということになっていますのでこの点が異なります。そのために社会生活の上では困難を伴うにもかかわらず、知的障害を伴わない発達障害の場合には障害者手帳の取得が困難であるという問題もあります。

 

Q:軽度発達障害とは

A: この表現は教育の世界から用いられてきた言葉だと思いますが、軽度発達障害の方が一般的に使われているかもしれません。この言葉は、寝たきりでしゃべることもできない超重症の子どもたちに比べれば、歩くこともしゃべることもできますから「軽い」という意味合いで用いられるようになってきたように思われます。しかし「軽度」という言葉がついてしまうと、軽いし、すぐ治るという印象を与えます。発達障害自体が軽い、社会生活上問題がないというわけではありませんし、軽いから治るという問題でもありません。以前は私も講演や解説で軽度発達障害という表現をしばしば用いてきました。最近ではその「軽度」をとって、単に発達障害というふうな表現をすることが多くなってきました。そこで私は発達障害という表現で統一しております。文部科学省も「発達障害」という表現に統一しました。

Q:発達障害:治療の原則

A:1. セルフ・エスティーム(self-esteem)の確保された人生をめざそう
2.社会性を獲得し、社会で暮らしてゆけるようになろう(これは成人になった時に自分で稼げるようになるということも含まれます)。

私の結論は以上の2つです。教育もトレーニングも対応も、もしするとすれば薬物療法も、すべてはこのためにあると私は考えています。

Q:発達障害:どこで診てもらえばいいの

: 子どもの場合には小児科、できれば小児神経科、あるいは精神科、できれば児童精神科ということになり、大人の場合には内科、できれば神経内科、あるいは精神科ということになろうかと思います。
小児科医は子どもをたくさん診ていますから、その子の何が違うかという部分を診ることは得意です。発達のことも良く知っています。しかし発達や障害についての専門である小児神経の専門医師はまだまだ数が少なく、また小児科医は精神症状を系統的に診るトレーニングを受けていないことや、発達障害の場合に見られる保護者の精神症状には十分に対応できない場合が多いという問題があります。
児童精神科の場合には、多くは一般的な精神科のトレーニングを受けたあとに専門医になりますので、精神科の知識や保護者への対応には問題がないことが多いのですが、ふつうの子どもたちをたくさん診ているわけではないので、発達段階で出てくるふつうの症状を異常と解釈することもあります。児童精神科の専門医は小児神経の専門医よりもさらに数が少ないという問題もあります。大人の場合にも内科、神経内科と精神科の関係は子どもの場合と同様です。精神科を受診することが多いようですが、発達障害自体、時には精神科医にも十分理解されていないことがあります。ですから何科にかかればよいかというご質問にはお答えすることが困難ですし、発達障害の診療を行っていると明記されている医療機関は少ない上、受診にあたっては予約が必要で、予約がなかなか取れないという問題もあります。
 現在の発達障害診療の大きな問題点は、言葉の遅れがある自閉症では脳波やMRIなど検査はするのですが、発達の改善に何をすればよいかを適切に伝えられる医療機関が「極めて少ない」ことです。診断あるいは経過観察で療育の適切な時期を逃していることも少なくありません。
 ADHDの場合には診断=投薬が多く、それ以前の社会生活訓練や生活技術訓練はあまり行われていません。しかし対応と環境の調整で生活能力はじばしば向上します。
 学習障害、特に発達性読み書き障害(ディスレクシア)は診断すら適切に受けていないことが多いと思います。対策以前の段階で止まっています。
 合併することの多い発達協調性運動障害は診断もともかく、対応がうまくできないこともわかってきたので、トレーニング方法を開発中です。

 私の外来は埼玉でほそぼそと行っていますが、初診の予約を開始すると1秒程度ですべて埋まり、半数以上の方をお断りせざるを得ない状況が数年にわたり続いていますが、なかなかよい解決策がありません。先日の受付でも北海道から沖縄まで多くの申し込みをいただきましたが一人でしている外来なのでご了解いただければと思います


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