発達障害

発達障害関連で最初に出したのは、2007年の「みんなに知ってもらいたい発達障害」、続いて2008年に「幼稚園・保育園での発達障害の考え方と対応」を、その後もたくさん出してきました。2008年5月に出してから発達障害、特に自閉症スペクトラム障害を中心として多くの書籍を出してきました。一番新しいのは左側の「発達障害:思春期からのライフスキル」です。最近ではディスレクシアの支援にも取り組んでいます。外来診療を中心とした臨床医なのですが、ときどき研究のお手伝いなどもしています。

発達障害と呼ばれるグループ(2013年のDSM5では神経発達障害Neurodevelopmental disorderという表記になりました)には自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(ADHD)や学習障害などが入ります。わが国では選択性緘黙やチック、吃音も入っています。アメリカでは吃音などは入っていませんが、知的障害、脳性麻痺、てんかんが入っています。発達障害というくくりでも国によって、内容が異なることは知っておいていただきたいと思います。

私は「発達障害」は発達そのものの障害という考えではなく、「発達の途中で明らかになる行動やコミュニケーションの障害で、根本的な治療法はありませんが、適切な対応により社会生活上の困難は軽減することの出来る障害」と考えています。発達障害は、生活の中でいつも「障害」を表に出しているのではなく、状況によって障害が明らかになるという特徴があります。

発達障害は治るかという質問を受けることがあります。私は発達障害の基本症状は消えないことが多いとは思いますが、社会生活上の今案を少しでも減らすことによって暮らしやすくすることがゴールだと考えています。そのためにトレーニングや介入や療育などが必要になるわけです。最近ではICTを使った介入も考えています。

発達障害は、本来は単独での定義と位置づけが望ましいのだとは思いますが、現在では精神障害の一部と位置付けられています。本来は小児期では、言語発達の遅れがある場合には、発達検査や知能検査の数値が低く出ますので、知的障害としての障害者手帳取得ができる場合が多いです。しかし療育や教育、介入によって言語をはじめとする発達指標が改善すると、知的障害とはみなされず、手帳が取れなくなる場合もあります。しかしコミュニケーションや行動など、社会生活上の困難を抱えている場合には、精神障害の手帳を取得することが可能なこともあります。特に障害者枠での就労を目指す場合には、障害者手帳を持っていることが前提になります。

【発達障害者支援法】

 社会としても発達障害についての問題が大きくなったことから、発達障害者支援法ができました。平成16年の10月に国会で成立して、17年の4月から施行された法律です。その後何度か部分改正されています。

この法律には第1条で「発達障害者の心理機能の適正な発達および円滑な社会生活の促進のために発達障害の症状が出てきたらなるべく早期に発達支援を行うことが重要」だと書いてあります。そして国、地方公共団体や学校教育、発達障害者支援センターなどの役割の位置づけがされています。この法律での定義からした代表的なものとしては自閉症があります。自閉症にはいくつかの種類があるとされており、これらのグループはアメリカ精神医学協会の診断基準(
DSM-W)ではPDD(Pervasive Developmental Disorder:広汎性発達障害)という表現が1980年代から使われるようになりました。最近では欧州を中心として、自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)と表現されることが多くなっています。アメリカの診断基準も2013年5月のDSM-5でASD(autism spectrum disorder)に変わりました。



【自閉症スペクトラム障害】
自閉症スペクトラム障害(ASD)には、高機能自閉症(高機能とは知的に障害がないという意味、アスペルガー症候群あるいは障害も含む)と言語発達の遅れで発見されることが多い古典的なKanner型の自閉症があります。言語発達の遅れで発見されることの多い古典的な自閉症では、1歳6か月児健診や3歳児健診が発見のきっかけにはあるものの、発見されても単に様子見だけであったり、発達検査(新版K式や田中・ビネーなどが多いです)をしてみて、数値が低ければ伸びることはないとあきらめさせるような場合も見受けられます。しかし国際的には積極的な介入を幼児期から行うことにより、発達課題の改善を見ていることが多くなっています。ABA(応用行動分析)をはじめとしたさまざまな介入方法がありますが、自閉症スペクトラム障害と診断されても、一人ひとり問題点は異なります。個人に合った方法をどうやって見つけて実行するかがカギです。

ASDはコミュニケーションを含む対人関係の障害と常同行動(目的のわからない同じような行動:手をひらひらさせる、ピョンピョン飛ぶなど)や感覚過敏などのこだわりの症状が見られ、その程度はさまざまです。いわば連続性のある症状が多様に見られるといえます。

男女比は男子が3〜5倍多いといわれてきましたが、実際にはそれほどの差はないとする報告が増えてきました。ASDの頻度は1〜2%とする報告が多いですが、診断基準に掲げられただけではなく、社会生活上の困難も地域や状況によって変わりますので簡単には言えないかもしれません。なお1歳過ぎまでの発達が1歳6か月ころから2歳にかけて退行してくるいわゆる折れ線型自閉症も幼児期のASDの20%くらいを占めると考えられています。

たとえば米国では幼児期早期から、個人個人に合った個別の介入を始めることが勧められていますが、わが国では3歳以降に小集団での療育(個別の発達状況などのチェックはしますが、個別にプログラムが作られるとは限りませんし、作られたとしてもそれを評価できるsupervisorがいないことも多いです)が行われることが多くなっています。

ではどうすればよいのか。なかなか正解はありません。少しでも参考になればと本も書いていますし、講演活動なども行っています。もちろん幼児期だけではなく、知的障害がない場合には学童期・思春期以降に社会生活上の困難から診断されることもあり、その場合には薬物療法がおこなわれることが多いですが、まずは課題を把握して方向性を決めていくことが基本ではないかと考えています。

次にADHDAttention Deficit/ Hyperactivity Disorder)、日本語では一般的に注意欠陥多動性障害と訳されているものがあります。しかし、新聞などマスコミを通じてADHDという表現の方が知られているかもしれません。忘れ物が多い、集中できないなどの不注意の症状と、割り込むなどの衝動的な症状、じっとしていられないなどの多動の症状が見られ、不注意の症状が強い不注意優勢型と、多動や衝動の症状が強い多動・衝動優勢型があります。
 わが国では保険適応のある薬剤としてコンサータ、ストラテラ、インチュニブ、ビバンセ(いずれも商品名、発売順)があります。コンサータとビバンセは処方権限のある医師による処方と、調剤権限のある薬局による調剤が義務付けられています。確かに薬物療法を行うこともありますが、まずは何があって学校など社会生活に困りごとを抱えているのかを理解し、どうするかを考えて、対応策を家庭や学校などと協力して行うことが必要だろうと考えています。基本は「不適切行動を叱る・注意する」から「不適切行動をがまんできればほめる、適切な行動をほめる」ことにどのようにして変えていくかだと考えています。左の参考図書もご覧ください。

 男女比はASDと同じく男子に多いと考えられてきましたが、実際には女子のADHD、特に不注意型は見逃されていることも多いという報告が増えています。

次に
特異的学習障害(LD: Specific Learning Disorder)です。読み、書き、算数の障害が代表的であると考えられていて、多くは小学校入学後に学習の遅れから発見されます。特に読みの障害が中心である発達性読み書き障害(ディスレクシア)は、学力の低下を結果として伴ってしまう小学校高学年まで診断されていないこともしばしばです。ディスレクシアは知的障害ではないのにもかかわらず、知的障害とみなされていることが少なくありません。それは音声言語(聞く、話す)には問題がないにもかかわらず、文字言語(読む、書く)に障害を抱えるために、会話には問題がなくても国語のテストや算数の文章題が解けない、すなわちテストの点数が低いという現実の前に、知的障害とみなされることがあります。

 ディスレクシアでは文字を瞬時に音に変える障害と、音をまとまりとして読む障害があります。詳しくは拙著「発達性読み書き障害(ディスレクシア)トレーニングブック」や6月に出る「読むトレGO!」をご覧ください。トレーニングをすることによって追いついてくることもあります。文字が苦手な子どもたちのためにNintendo Switchを使ったトレーニングソフトも開発中です。6月の発売を目指しています。

 特異的学習障害は単独で存在することもありますが、
ADHDや高機能自閉症の症状が同時に存在することもあります。ですからADHDと高機能自閉症と学習障害とが全部1人の方の中に存在するというような場合も実際にはあります。やや男子に多いと考えられていますが、頻度はわが国では正確な調査が行われていないのでわかりませんが印象としては5%くらいかなと感じています。思っているよりもはるかに多いと思います。

 次に発達性協調運動障害(Developmental coordination disorder: DCD)があります。座ることはできるけれどもすぐに姿勢が崩れて座り続けられない、縄跳びができない、姿勢を保持しながら書くことができないなどの症状があり、基本的には体幹の機能がうまく働いていない可能性があります。「気合い」や「根性」などの精神論で対応されていることが多いですが、トレーニングによって改善することもあります。トレーニング器具の開発やサポートグッズの普及のお手伝いをしてきましたが、プロジェクションマッピングをセンサーを使ったトレーニングソフトが開発できないかと検討を始めました。

 そのほかにも選択性緘黙(場所や環境によって話ができたりできなかったりする)や吃音(どもってしまうことでいくつかのタイプがあります)なども発達障害の中に位置づけられています。